大判例

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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)443号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕被告は西部新宿〜本川越間等において鉄道運送業を営む会社であるが、原告等四名が乗車し訴外北島正雄の運転する乗用自動車が昭和二八年二月七日午後九時ごろ、東京都杉並区中瀬町川越線の下井草〜井荻駅間の踏切を通行中エンジンに故障をおこし、下り線路上に停止していたところ、被告会社の使用人である吉田米次郎の運転する被告会社の二輛連結の下り電車がこれに衝突し、その結果原告らが負傷し、自動車が粉砕された。原告らは右事故は被告会社の吉田運転手の過失によるものであるとして損害賠償および慰藉料の請求をした。原告らの主張によれば吉田運転手の過失は第一には前方注視義務を怠つた点にあり、第二には本件のような彎曲した軌道を通過するときは事故防止のため応急措置をとりうるよう減速して運転すべき注意義務があるにかかわず、これを怠つた点にある、というのである。判決は第一の点について吉田運転手は前方注視義務を怠つた事実はないとし、第二の点についてはかような場合電車運転手は当然には減速の義務はないと判示し、運転手の側に過失のないのに反し、かえつて被害者の側に重大な過失があるとして、原告の請求の全部を棄却した。判決は右の点についてつぎのように説明している。曰く。

「原告訴訟代理人は電車運転手が彎曲する軌道を運転する場合は若し軌道内に障害物を発見した際に事故を未然に防止するため応急の措置をとり得る様速力を調節する義務がある旨主張するが、一般に専用軌道を使用する交通機関は踏切を通過するに際し事故発生の危険が特に大である等の特別な具体的事情がある場合を除き一般に電車の速度を減ずる義務はないというべきであつて本件の場合軌道が彎曲しているため電車から本件踏切の見通しが幾分不良である事は検証の結果(一、二回)から認められるが、反面、証人吉田米次郎の証言によれば右踏切は人通りが少い場所であると認められ、この様な場所においては電車運転手は警笛の吹鳴によつて通行人に注意を喚起し事故の発生をできる限り防止すべき義務があるに止まり、徐行の義務があるとは認められない」

「そればかりではなく、本件に於けるように自動車が専用軌道の踏切上でエンジンの故障のため停止してしまつたような場合は、該自動車に乗つている者は先ず第一に、速やかに自動車より降りて電車との衝突の危険にそなえるべきことは、踏切を通行する者にとつて当然の注意義務と謂わねばならない。然るに原告清子、同喜久子は車外が寒かつたので下車せず、親権者として監督の任にある原告正一同清子は同乗の次男昌彦(当時八歳)をも下車せしめず、故障自動車内に残り、電車が接近したとき始めて難を逃れようとしたが、時既におそく、下車した直後電車と激突した故障自動車にはねられて受傷したことは前記の通りである。

そうだとすれば、本件事故によつて原告清子、同昌彦及び同喜久子が蒙つた傷害は踏切で故障停車した自動車に漫然と乗つていたと言う原告清子同喜久子の過失、右自動車に原告昌彦(八歳)を乗せていた親権者たる原告正一、同清子の重大な過失によるものというべく、同人等において多少の注意をすれば容易に防止し得たものであることは明らかであるからこの様な場合に電車運転手吉田において本件踏切上の障害を発見するのが若干遅れたとしてもこれと前記傷害との間に相当因果関係があるとは認めがたい。」

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